信濃毎日新聞6月 信州楽学 掲載記事

-------- 信濃毎日新聞 2010年6月3日(木)掲載 『信州楽学』 聞き手・北沢房子さん --------

 

 「松本で20年以上も前から安全安心な農産物づくりに取り組み、日本の食糧自給や環境問題の事を考えながら農業経営をしている人がいます」と前回登場した納豆作りの村田滋さん=長野市=が紹介してくれました。松本市島内の浜幾郎さん(62)の田んぼを 訪ねました。

 5月中旬、田植えを翌週に控えた浜さんの田んぼで、近くの島内小学校の5年生120人ほどが、笑顔で泥をはね上げ走りま回っていた。「田植えの前の泥んこ遊びが面白いんです」と浜さんは目を細める。子供達は今年、社会科で米について学ぶので、浜さんの水田で収穫までの米作りを体験するという。

shinmai1006.jpg 浜さんが耕作する水田は、松本市や安曇野市に18ヘクタール。低農薬で有機肥料を使った特別栽培米に取り組んできた浜さんは、農薬をゼロか1回の散布にし、代わりに除草機を使い、アイガモを放したり米ぬかや大豆かすをまいたりして雑草の発生を抑えている。

 環境と安全への配慮は『当たり前のこと』と言い、作った米は付加価値どころか採算ぎりぎりで販売している。「よその価格を気にしているより、最初から自分が出せる最低価格にしおけばいい」

 1990年には有限会社の浜農場を設立し、米のほか、大豆に麦、果樹、野菜もそれぞれ15~20ヘクタールを栽培する。そして12人の社員と『自己完結できる農業の仕組みづくり』を目指して販売まで行う。

 浜さんのスタートは、農家の後継ぎとして農業大学校で畜産を学んだ後、実家で畜産と稲作の二本立てだった。しかし、周辺の宅地化などで畜産業は撤退。1975年ごろからいち早く大型機械を使った作業受託で稲作の規模拡大を図り、減反に伴って麦と大豆やそばの二毛作も導入した。

 「でも、それは時代の流れに乗っただけ。自分考えで動くようになったのは20年余り前。国の政策に左右されず米を売るにはと考え、自分で直接売り始めたんです。大阪に知っているお米屋さんがいて販売してもらいました」。浜さんは、当時の農業者としては珍しく青年会議所に入って人脈を広げていた。

 大阪で消費者から浜さんにかけられた言葉は「何か作り方が違うの?」『こだわりがあるの?』。まだ、農薬も化学肥料も皆が当たり前に使っていた時代、都会に生まれていた安全志向に気がついた。そこから、低農薬、有機肥料での米作りを志す。

 田植機に除草機を自分で工夫して取り付けてみたり、肥料会社に稲用の有機肥料を作ってもらったり・・・・・。当時はなかなかうまくいかなかったが、それらは後に市販品として売られるようになった。
 浜さんのテーマは今、有機農業から環境農業へと発展している。それには地域や消費者との連携が欠かせない。浜さんの大胆で地道、多彩な取り組みは次回にしよう。


-------- 信濃毎日新聞 2010年6月10日(木)掲載 『信州楽学』 聞き手・北沢房子さん  --------

 浜幾郎さん(62)は、20年あまり前から環境と安全に配慮した農業を目指して試行錯誤してきた。そして、今も様々な挑戦が続く。

 現在進めているのは、バイオ燃料による農業経営だ。近隣の飲食店やスーパーから集める廃食油を再利用してバイオディーゼルを作り、浜さんの農場のトラクターやコンバインなどに使う。近くの製造機を自宅横の作業所内に設置し、所有する農器具15台ほどが使う年間約10000リットルの軽油を徐々に切り替える計画だ。

 「地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量の削減につながるのですが、(県条例で)産業廃棄物の処理にも当たるので、地域の皆さんに認めてもらえないとできません』。説明会などを経て、近く県に許可申請し、7月にも稼働する。「手間で割高でも二酸化炭素の削減は当たり前の時代。化石燃料に頼ってもいられないでしょう」とあえて取り組む。

 環境保全を考える時、1人の力では限界がある。島内地区では、2007年に地域活動として農地・水・環境保全向上対策事業を立ち上げ、浜さんが会長を務める。「皆で化学肥料や農薬の使用を減らした作付けをしたり、木や花を植えて地域環境を良くしています。だんだんと人の輪が広がって意識が高まるよう、種をまいているところ」。行政に頼るだけでなく、地域で何ができるのか模索中という。

 浜さんは、消費者とのつながりも大切にしている。その一つが大豆トラスト運動だ。

 大豆は日本人に身近な食材にも関わらず、自給率が1割にも満たない。しかも、輸入大豆は遺伝子組み換え大豆の割合が大きい。大豆トラストは、消費者が収穫される大豆の権利を買い、浜さん農場で作る安全な大豆を手に入れるシステムだ。「10年ほど前、松本市消費者の会に投げかけたら、乗ってきてくれたんです。だいたい毎年50人。消費者の会はみそ作り会も開いています」

 自給農園を貸し出しているのに加え、野菜作りの講習会も最近始めた。「講師は農協の技術員に来てもらっていますが、ゆくゆくはぼくが教えます」。自分で作るのと人に教えるのは違うと、通信教育で野菜作りなどあらためて勉強中だ。講習会に来てもらうのは農作物の販売につながるだけでなく浜さんの生きがいでもある。

 数年前から、妻のさとみさん(58)の病気介護のため、自分の仕事を精米など主に自宅の周りでできることに限っている。2人の息子が浜農場で働くようになり、「これからは側面から経営を支えていくのがぼくの役割かな。地域の人と環境を良くしたり、学校教育や食育にかかわることで、結果として浜農場も良くなっていくと思う」